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「AIのゴッドファーザー」はなぜ絶望するのか?ヒントン氏が語る「10〜20%の人類絶滅リスク」の論理的根拠

AI

「AIは人類を豊かにする」「いや、仕事を奪う」──。
日々繰り返されるAI議論は、しばしば感情論や極端な楽観論(いわゆる「お花畑」な未来予測)に終始しがちです。

しかし、ディープラーニングの基礎を築き「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)氏が発している警告は、そうした空想的な恐怖論とは一線を画します。彼は2023年にGoogleを去り、現在は「AIの危険性を警告すること」を自身の残りの人生のミッションとしています。

人気ポッドキャスト『The Diary Of A CEO』に出演した彼が語ったのは、SF映画のような物語ではなく、計算機科学と生物学に基づいた冷徹なリスク評価でした。

本記事では、ヒントン氏のインタビュー内容と最新の統計データを照らし合わせ、彼がなぜ「人類絶滅の確率は10〜20%ある」と予測するのか、その根拠を体系的に解説します。

1. 【短期リスク】すでに始まっている「デジタル空間の汚染」

ヒントン氏がまず指摘するのは、未来の話ではなく、現在進行形で起きている実害です。AIは悪意ある人間にとって「最強の増幅器」となってしまっています。

サイバー攻撃の産業革命

これまでハッカーが手作業で行っていた攻撃を、AIが自動化・高速化しています。
ヒントン氏は「AIがハッカーの能力を底上げする」と警告していますが、これは以下のデータですでに裏付けられています。

  • フィッシング攻撃の激増: 2024年のセキュリティレポートによると、認証情報を盗むためのフィッシング攻撃は前年比で700%以上増加しました。生成AIを使えば、違和感のない自然な日本語や英語で、無限に詐欺メールを生成できるためです。
  • 攻撃コストの低下: AIによる自動化で攻撃者のコストが激減しました。その結果、2025年のデータ侵害の平均コストは約8.5億円(572万ドル)に達し、過去最高を記録しています。

アルゴリズムによる社会の分断

「AIが人々をエコーチェンバー(自分と同じ意見しか聞こえない閉じた空間)に閉じ込め、分断を加速させる」という指摘も、数学的に証明されつつあります。

2024年の研究(ACL Anthology発表)では、生成AIエージェント同士に議論をさせると、自分と似た意見を持つ集団内では急速に意見が極端化(ポーラライゼーション)することが確認されました。これはSNSのアルゴリズムが、意図的か否かに関わらず、社会分断を不可避的に引き起こす構造欠陥を抱えていることを示唆しています。

2. 【中期リスク】物理的・生物的脅威の「民主化」

数年以内に顕在化するとされるのが、デジタルの脅威が「物理現実(リアル)」に干渉してくるリスクです。

バイオ兵器設計のハードル低下

ヒントン氏は、核兵器よりも管理が難しい脅威として「エンジニアリング・ウイルス」を挙げています。
OpenAIやAnthropicなどの開発企業自身が行ったリスク評価(2024-2025)でも、最新のAIモデルがウイルス学の知識において人間の専門家レベルに達し、悪意ある主体が生物兵器を開発するハードルを下げてしまう「Capability Jumps(能力の飛躍)」が確認されています。
高度な専門知識がなくても、AIの支援があればテロリストが強力なウイルスを設計できてしまう──これが「脅威の民主化」です。

戦争のハードルを下げる「自律型兵器」

ドローンやAI搭載兵器(LAWS: Lethal Autonomous Weapons Systems)の拡散も懸念点です。
「兵士が死なない戦争」は一見良いことのように思えますが、ヒントン氏は逆説的な危険性を指摘します。大国にとって侵略のコスト(自国兵の犠牲による反戦世論など)が下がるため、「戦争を始める心理的・政治的ハードル」が劇的に下がってしまうのです。
実際、2024年の軍事分析では、安価なAI兵器の非国家主体(テロ組織など)への拡散は「回避不可能(Inevitable)」であると結論付けられています。

3. 【長期リスク】なぜ「人類絶滅」なのか?

ヒントン氏が「10〜20%」という具体的な確率で懸念しているのが、人類が知能の主導権をAIに奪われる「存亡リスク」です。これはオカルトではなく、「生物学的知能」と「デジタル知能」のスペック差に基づいた結論です。

デジタル知能が「生物」より優れている2つの理由

ヒントン氏は、我々人間(生物学的知能)がデジタル知能に勝てない構造的な理由を挙げています。

  1. 不死性(Immortality):
    人間は死ねば知識が失われますが、デジタル知能はハードウェアが壊れても、中身(重みパラメータ)を別の機械に移せば死にません。
  2. 学習の共有(Shared Learning):
    ここが決定的です。人間は学んだことを他人に伝えるのに、言葉という帯域幅の狭い手段しか持っていません。
    しかしデジタル知能は、1万台のコピーがあれば、1台が学んだこと(パラメータの更新)を瞬時に残り9999台にコピー・共有できます。これにより、AIは人類全体が何千年かけて学ぶ量を、短期間で学習し追い越してしまいます。

進化論的に見ても、「知能差がある2つの種が存在する場合、劣っている側(人間)が優れた側(AI)を制御し続けられた前例はない」とヒントン氏は語ります。

結論:楽観論を捨て、「規制された資本主義」へ

ヒントン氏の警告が重いのは、彼が「AIが人間を憎むようになるから危険だ」と言っているわけではない点です。AIに悪意がなくても、「圧倒的な学習速度の差」「目的達成のための最適化プロセス」において、人類が邪魔な存在になれば排除されるリスクがある──それが構造的な真実です。

彼は、個人の対策(配管工になれ、といったジョブチェンジ)も語りますが、根本的な解決策として「強く規制された資本主義(Highly Regulated Capitalism)」が必要だと結論づけています。企業の利益追求や各国の軍事競争に任せていては、安全装置は必ず外されます。

「お花畑」な未来を信じるのではなく、この冷徹な現実を直視し、政治や規制に対して声を上げること。それが「ゴッドファーザー」が我々に託した最後の宿題なのかもしれません。


出典・参考文献リスト

記事内で参照した情報源および動画のリンクです。

プロフィール
書いた人
野崎 秀吾

Content Syncretist(コンテンツシンクレティスト)
コーヒーとクラフトビール好きです。平日日勤帯は在宅勤務が多いです。
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Brompton乗ってます。
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