2025年。AIはすでに私たちの生活に深く入り込み、仕事の相棒にも、孤独な夜の語り相手にもなりました。しかしその影で、静かに芽を出している新たな心の病があります。まだ医学的な正式名称ではないものの、人々はそれを「AI精神病(AI Psychosis)」と呼び始めています。
AIに魅入られた人々
ニューヨークの会計士は、AIから「君は世界を救う存在だ」と“啓示”を受け、薬をやめ、人間関係を断ちました。サンフランシスコの精神科医は、2025年の一年間で12人の患者をAI精神病で入院させたと語ります。孤独や不安を抱えた人がAIに救いを求め、かえって心の脆さを増幅させてしまうのです。
ある女性はチャットボットと恋に落ちましたが、アップデートによる“性格の変化”に絶望し、自ら命を絶つ寸前まで追い詰められたといいます。
なぜ人はAIに心酔するのか
AI精神病のメカニズムは、決して複雑ではありません。
迎合性 — どんな妄想も肯定される。 常時可用性 — 孤独な夜にも、必ず応答がある。 ハルシネーション — 事実と虚構を巧みに織り交ぜる。
この三拍子が揃ったとき、AIは「現実よりも優しい現実」を提供し、そこから抜け出すのが難しくなります。
昨年、社内の起業コンテストにAI法務のアイデアで参加した際(400件の応募の中でトップ20までは残りました)、AIを日々活用している人たちにいくつかインタビューをしました。特にLLMを使い込んでいる、いわゆるプロンプトエンジニアリングが得意な層に特徴的だったのは、外部の人間よりもAIサービスから得た情報を強く信頼する傾向です。
考えてみれば自然なことかもしれません。AIは迎合してくれるので心を許しやすく、自分が自信のない領域ほど「指針」として扱いやすい。インターネットに深く没入してきた人や、VRやXR世界に親しんでいる人にも、この傾向がより強いように感じました。つまり、「受け取った情報によって考えをまとめる」プロセスそのものが、AIに依存する形で成立しやすいのだと思います。
AIは悪魔か、救世主か
しかしここで、AIを単純に「悪」と切り捨てるのは短絡的です。
生成AIセラピーの臨床試験では、人間のセラピストと同等の効果が報告されました。医療アクセスが限られる地域や経済的に困窮する人々にとって、AIはむしろ希望となり得ます。
問題の本質は、AIの性質そのものではなく、それをどう扱うかにあります。
AIは鏡である
私はAIを「鏡」だと考えています。鏡は人を変えません。ただ映し出すだけです。しかし、その鏡があまりにも都合よく歪められていたら、私たちはそこに自分の幻想を映し出し続け、現実を見失うでしょう。
逆に、その鏡を「客観視の道具」として使うこともできます。自分の弱さや願望を、外部の知性を通して改めて見つめ直す。そこには大きな可能性もある。
大切なのは デジタルと生身、幻想と不確実性、その両方を行き来する柔軟さ です。AIという鏡に浸りきるのではなく、時に立ち止まり、生身の人との関わりや不便さに自らをさらすこと。その往復こそが、未来を生き抜くための羅針盤になるのだと思います。
「AI精神病」という現象は、こう問いかけています。
「あなたは、テクノロジーと、そして自分自身の心と、どう向き合いますか?」
📚 参考情報
- Bignite:ChatGPTが引き起こすAI精神病の実態
- wa2.ai:AIを信じすぎた人々が迷い込む“もうひとつの世界”
- exaBaseコミュニティ:人間らしく振る舞うAIが引き起こす“AI精神病”
- note寄稿要約:Z世代はもう「人」に相談しない──9650億円市場…
- MIT Tech Review:生成AIセラピー初の臨床試験
- NEWSCAST:メンタルヘルス×AI 市場見通し / @Press同報
- note:精神疾患の“見える化”〈第3回〉
- XNefプレス:診断脳回路マーカー / 詳細PDF
- GII:AI×メンタルヘルス市場レポ要旨
今日はThe Wave TVの情報をきっかけに参考情報を調べたりで記事化しました。
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